天冥ははっと我に返った。


(昔の事ではないか)


 今更思い出して、何になる。

 何を、悲しむ必要がある?


 天冥は余裕そうな顔をして「よし」と沈黙を破った。


「やってやろうではないか」

「何を」

「その幻周、俺が滅してやろう」

「何を言う。渾沌がないのに、どうやって―――」

「俺を誰だと思うておる?」


 天冥は高らかに笑って言った。


「鬼もおそるる外道の貴公子、この天冥がお前に味方してやる、と言っておるのだ」

「強いのか?方術は」

「当たり前じゃ」


 天冥は牙にも似た八重歯を見せて笑むと、そこにあぐらをかく。


「この天冥を味方につけたということは、安陪(あべの)晴明(せいめい)を味方につけたも同然ぞ。安心しろ」


 ぬるり、と天冥は自信満々に言葉を放った。

 かの有名な大陰陽師、安陪 晴明に並ぶのかこの人は。

 そうは思ったが、天冥の言葉には自信過剰と言ったものが含まれてはいなかった。


「俺がついてる」