もちろん、それは「庶民」に限ってのものだった。


 つまり、中級貴族の明道は食べた事がないのである。


「・・・何?」


 天冥は少しいらついたように眉をしかめた。


「いや・・・」

「生憎、俺はお前らが食ってたようなものは膳に出せないんでね。貴族ではないから」


 たちが悪いというか、酷い皮肉だった。


「分かってる・・・・・・」


 萎えてしまった表情で言う明道に、天冥は何のつもりか言葉を訂正した。


「米の一粒でも、食えば力になる。俺の父親が言うておったことじゃ」

「・・・名言だな・・・」

「まぁ、さっきの言葉は取り消してやるから、とにかく食っておけ。どこかで倒れられても、俺は助けてやれぬ」


 言葉は上から目線の上に荒く粗暴だが、なんだ、意外と優しい言葉をかけてくれたではないか。

 貴公子の時の天冥よりも、こっちのほうがいいかもしれない。


 明道は思うと「ありがとう」と言って椀を受け取った。