「あぼぼっ!」


 一度喰ったものを嘔吐するような声を出し、昌明が白目をむいた。目玉がぐるん、と上向きに回転するように、だ。

 そしてそのままうつ伏せにして倒れた。

 天冥は駆け寄って、昌明の口元に手を当てた。

 呼吸はしている。どうやら気を失ったらしい。


「ふんっ」

 
 天冥は上から降ってきた何かに気付き、さっと後ろに飛びのく。


「ナウマクサンマンダ・マタレイヤ・ソワカ!」


 天冥が印を唇に当てて真言を唱える。すると、飛んできたそれは「ばきん」と硬いものが折れるような音を立て、床に落ちた。


 これは、針のように丸めた呪符である。


「な・・・」


 突然の出来事に、明道は呆然としている。

 天冥は上をむいて「何者ぞ!」と威嚇するように言った。


「式(しき)か人型(ひとがた)でも放ってどこかに身を隠しておるな。出て来い!」

 
 すると、天井からひらりと一枚の人型が落ちてきた。そこから、昨晩の影、幻周とやらの声が聞こえてくる。


『気付いておったか』

「ぬしの人型から、強い呪力が感じ取れた。それがぬしの物だと、すぐに分かったわ」

『通常なら気付かぬ。貴様、並みの陰陽師ではないな』

「並みではない」

『だてではないな――外道の貴公子殿』

「・・・なんじゃ、知っておったのか」