「わ」


 昌明は驚いて腰を抜かした。

 天冥が明道を連れてきたからである。

 年寄りなのに驚かせてしまったなぁ。寿命が縮んでないといいけれど、と天冥は思う。


「ただいま帰りました・・・父上」


 明道がこれまでにないほど低い声で言う。

 昌明が天冥を見やった。焦りの色が目に浮かんでいるのが、見ただけで分かる。


『どういうことだ、なぜ死んでおらぬのだ』


 目が、そう言っている。


「いやぁ、すみませぬな」

「――」

「ちと気になったことがあって、あえてここに連れてきたのでござります。まぁ、たいした事が隠されていなければ、依頼どうり、明道殿を殺しますがね」

「気になった、こと?」


 天冥は縦に首を振った。


「昨晩、右京の木辻大路近くの山に来られましたな?」

「!」


 昌明が驚いた様子で肩を小さく震わせたのを、天冥は見逃さなかった。

 これはいよいよただならぬ隠し事があるな、と思う。


「そしていくらかの人間と行動していられましたな。邪魅に渡すだなんだ、と」

「聞いて・・・おったのか?」


 昌明の言葉に、天冥は威光を見せ付けるかのように、口元を扇で隠して微笑した。