男だ。

 差し込んだ橙色の日差しに照らされ、夏蜜柑色の狩衣が映えて見える。烏帽子を被っていたが、上に束ねられた茶髪に混じった赤毛がきらりと光っていた。

 長身だが、肩幅は広くなくスラリとしている。

 大きな葉の付いていない古木の幹に背を預けて、不遜に腕を組んでいた。

 男の目じりは、まるで日本刀の先のような形をしており、鋭い。


「―――」


 明道は、無性に寒気を感じた。風をこじらせた時のような、悪寒だ。

 そのまま通り過ぎようとすると、男が「藤原 明道殿ぉ」と不気味な声で語りかけてきた。


「なぜ・・・私の名を・・・」

「失礼」


 男は明道の前まで歩み寄ると、にやりと笑みを浮かべた。そこから牙が生えてきたようにも、明道には見える。


「『外道の貴公子』―――天冥を申しまする」

「てっ・・・」


 明道は小耳に挟んだことがあった。

 金子を受けて方術を発揮する民間陰陽師に過ぎぬが、その残虐かつ非道な性格は鬼も逃げ出すほどだ・・・と。


「てん・・・め・・・い・・・」


 訂正、鬼より怖いものが今、明道の目の前にいた。

 ぞろり、と天冥から殺気が湧き出るのを、明道は感じた。