そうなってくれれば、多優にとってはこの上ないほど満足だった。


 多優の空想は叶わない。


 しかし、今多優が望んでいる願い事なら、運がよければ叶う。


「俺も、恩返しが終わったら――」


 離れよう、莢から。


 いつかは別れなくてはならないのだ。


 莢はこの都で明るく生きていってくれれば良い。


 自分は、陰の世界で生きてゆけばよいのだ。



「ありがとう・・・」



 名を、呼んでくれて。


 駆け出し、多優は脱兎の如くその家を出た。



 多優の頬は、いつの間にか梅をもしのぐほどの赤色に染まっていた。