よく見れば、莢は文壇の上に伏せて眠っているではないか。


 夜遅くまで仕事をしていたのだろう。


 まだまだ、起きる様子は無さそうだ。


「ふぅーー・・・。驚かせおって」


 多優は莢に歩み寄った。

 
 顔に落書きでもしてやろうか、と無防備に寝顔を晒している莢を見て多優は思った。


 筆を持ちたいという衝動に、少しだけ駆られ「面倒臭い」と思って辞める。


 莢の近くに薬草を置いてやり、多優はすぐに莢に背を向けようとした。まさにそのときであった。



「んん・・・」


「!」


 莢が呻くような声を出した。しかし、その顔は心なしか笑っているように見える。


 こいつが起きる前に出て行こう。


 そう思った多優に畳み掛けるようにか、莢の口からこんな言葉が零れ落ちた。








「多優・・・さん・・・」