多優――のちに「天冥」と名乗る事になるであろう男は、道祖大路にひっそりと建つ家の前に仁王立ちしていた。

 

 仁王立ち、といっても竜頭蛇尾。


 見かけは大層強そうに構えてはいるが、これで存外、緊張しているのである。


 というか、何で緊張しておるんだろうな、俺は。


 たかが一般人、女であろうが、相手は。


 自分にそう言い聞かせてはいるのだが、わずかに鳴る鼓動がやむ様子は無い。


 高すぎず、低すぎない均衡を保った、意地悪な鼓動だった。


 ええい、うろたえるな。


 意を決して戸を軽く叩いた。


 しかし、こん、と音が鳴るだけで、当の本人は出てこない。


「・・・?」


 出てこねーのかよ、とどこか安心しながらも心の声が軽く語調を荒らげる。