「幻周の事も、俺の事も、こいつは唐に渡ったこと以外について、件に関することは忘れた。もう思い出すことはないだろうよ」




 その瞳は、疲れが浮かんでいてもどこか安楽な様子もあった。



「しばらくは目覚めぬし、子供たちとも幸せに暮らすじゃろう。こいつなら・・・」

  
 天冥はそう言いかけて突然空を見る。



 すると、瘴気をまとった渾沌が巨大な頭を見せ付けるようにこちらを見下ろしていた。


 そして、その下には道満が薄気味悪い笑みを浮かべて立っている。


「やりおったわ、天冥よ」


 高らかに声を上げて道満は笑った。


「見ておられた、と言うことですね」


「ああ」


 天冥は何も言わなかった。


 どうして助けてくれなかったのだとも、言わなかった。


 道満に助けられて勝っても、正直なところ達成感が無いからだ。