抱き締めたその身体に抵抗はなく、しかしうぶさを感じさせるように小さく身じろいだ。




「それは・・・俺の台詞じゃ」




 天冥のその行いに、恋情と言ったものは一切含まれてはいなかった。


 含まれていたのは、言葉であった。



 『忘れられなくて、ごめん』、『好きになって、ごめん』、『多優として生きられなくて、ごめん』そして――。


 『あの日から、多優としての時間をくれて――ありがとう』、だ。


 天冥は莢を放した。すぐに背を向ける。


 その四つの言葉以外は、全て恋情とも言える言葉しか浮かんでこなかったからだ。



 顔を上げた時の莢は、顔全体が赤く染まっていた。


 しかし、それは天冥も同じだという事は、耳の色でわかった。これでもかと言うほど、赤くなっていたからである。


 天冥は明道を抱え、振り向きたい感情を抑えて三途の川の反対側に向かって歩いた。


 言いたい言葉なら、本音を言えばまだまだたくさんあった。


 しかし、言わないよりも言う方がよっぽど辛い。