「俺はそんなに殿の力になれないんかね…」
半蔵を目の前に立っていると自分がどれ程役に立たないかを思い知らされる。
それほど半蔵との力量の差があるのはもちろんわかっていた。
しかし、家康が易々と手放しても悔いがないような『道具』ではないと自負していたが、家康自身は忠実なる犬は一匹でよかったのかもしれない。
もっとも、その犬は先程報酬次第で裏切りも可能であると言っていたが。
再び前を向いた半蔵はうんざりするようにため息をつく。
「しつこいですよ。お前は自由だと言われたようなものだと思えば、これから自分を奥州に売りに行くようなことです」
「しかしなぁ…」
するとピタッと半蔵が急に止まり、源九郎の行く手が阻まれて詰まってしまった。
「おいこら、半蔵!急に止まったら俺に当たっちまうだろ」
ぶつぶつと呟く源九郎を冷酷な瞳が振り返りざまに見上げる。
氷柱を投げつけられたような衝動に駆られ、源九郎は思わず唾を飲んだ。


