三河の槍使い






「さあ。人に興味ない僕に訊いても仕方がないのはご存知のはずですよ」





小柄な身体はそれに見合わないほどの歩幅で山道を進んでゆく。


源九郎はそれに追いつくのにも一苦労だった。






「要はどの任務が一番己の利になるかです。これでもし、伊達政宗の報酬が家康殿のそれより高いならば、僕は裏切ります。徳川の情報を流すでしょうね」





もっとも、家康殿以上の報酬はなかなかいないでしょうが、と半蔵は淡々と付け加えて言った。












伊賀で育った忍は情が薄い───否、無いに等しいと評判である。


そのため、金さえ払えばどんなに非情なことでも完璧に遣り遂げる。





半蔵もそのひとりなのだ。







「お前の自慢の槍を披露できる場所は奥州の方が多いとも思いますし、家康殿はそれを見越したのかもしれませんね」






それは擁護したつもりか、と源九郎が背中へ向かって問い掛けると、半蔵は振り向いて妖艶な笑みを浮かべるだけで何も言わなかった。








─────やはり、奴は喰えない。






いつもは何も感情を見せないくせに、今のような笑みも浮かべることもあるのだ。