視線を通わせると小十郎に心を読まれるのではないかと疑う源九郎は敢えて彼を見ようとせず、横に視線を投げたままだ。
だがそんな心情でさえも読み取ってしまった小十郎は小さいため息をついた。
「何故、出ていくのですか。私は貴方が政宗様に気に入られている──そう答えましたよね」
「……別に、お前には関係ねぇだろ」
「いえ。もしこの後間者として誰かに密会するのであれば、私は貴方を今ここで捕えなければならない」
そう言って小十郎は片足を少しずらす。
相手──否、獲物に噛み付かんばかりの勢いをした瞳は今朝見た姿の如く鋭い。
しかしながら彼は今丸腰。
とりあえずは斬られるという心配はなさそうだ。
まさか、半蔵の気配に気付いていたとでも言うのか、
認めたくはないが、あれはこの戦の世随一の使い手。
いくら自分を好いていないにしても、計画の中心に家康がいる以上、わざと気配を出しながら侵入したとは考えにくい。
「私が納得する理由がなければ、あるいは…──」
「……だぁぁあ!もう!城下の宿娘が気がかりなんだよ!」
──と、つい本音を洩らしてしまった。
予想外の答えだったのか、小十郎は目を瞬かせながら一言、宿娘?と呟く。
「今世話になっている宿の娘だよ。昨日は帰るって言ったのに帰れなかったしよ」
「……はあ、そうですか。それは……貴方のいい人ですか?」


