三河の槍使い





澄んだ声があとを立とうとしている源九郎の背中に届く。




「政宗様に何も告げずに」




「小十郎か……」





華奢で色白で、こんな男に自分が負けたとは到底思えない。



振り返ると、彼は丸腰で着流し姿だった。




まったく……。
この男に対して秘密裏にできることなどないのかもしれない。





源九郎の肩幅の半分ほどのそれに、どんな力があるのかわかない。





「政宗様は貴方の力を買っておいででした」




「ほぉー…。そりゃ、嬉しいね。お前さんにはずたぼろだったのによ」




斬られた傷跡を包帯の上からなぞってみる。


完全に塞がりきっていないそれは、伊達政宗が言っていたように獣傷のようだ。





「まあ、あれは仕方ないでしょうね。貴方が私を本気にさせたのですから」





源九郎はすっと目を細める。



無心に刀を振っているようにも見えた彼だが、それが本気を出したと言う。





「嘘じゃねぇだろうな」




「嘘を言ってどうするのです。本来なら、私は獣傷をつけるつもりはありませんでした」




「そりゃ、光栄なこったな」




俺を見下していたってことだな、それは。


異もなく言う小十郎の言葉に少なからず憤りを浮かべながらも、源九郎は軽く受け流そうと徹した。