「そうも言ってられないみたいです」
半蔵は面倒くさそうな仕草で文を懐にしまう。
「近頃、信長の動向が気になるようです。彼は忍を毛嫌いしてますが使えるものは使う御方ですので」
回りくどく、本心を表に出そうとしない。
それが半蔵のやり方だ。
察してくれ、と言っているのかもしれないが、源九郎にそんなものは通用しない。
彼は謂わば半蔵とは対極の存在。
物事ははっきり言ってもらわなければわからない。
「何が言いてぇんだよ」
「わかりませんかね、この馬鹿には。同盟を結んだ第六天魔王に悟られないためですよ。文は残りますからね」
抑揚の無い声だが、明らかに自分を一瞥している言葉だ。
呆れたように布団のわきから見下す半蔵に少しばかりの抵抗として源九郎は睨んでみる。
「そこまで言わずともいいじゃねぇか」
「そこまで言わなければ、お前は家康殿を軽蔑したでしょう」
「うっ……」
半蔵の言っていることは正しい。
事実、源九郎は緊張感が皆無の文に落胆し、また重要な話は口伝えだったことに怒りをおぼえた。
それが軽率な行動だったのは認めるしかない。


