「家康殿は何と?」
傍らで控えている半蔵が訊ねてきたので、源九郎はその文を適当に彼に渡す。
それを受け取った半蔵はさっと目を通すと、ああ、と残念そうな声を漏らした。
「そうなのです。家康殿は何処へ隠したのやら…」
「…いや、それを重要そうな文にされても困るから。つか、こんなののためにお前は遣わされたのかよ」
「まさか。今日はお前に言伝を」
「言伝?」
源九郎が首をかしげると半蔵はすっと目を細め、その薄い唇を妖艶に動かした。
「家康殿はお前に期待しているそうですよ。うまいこと、伊達政宗の信頼を得るように、だそうです」
期待、という言葉に不覚にも胸が高鳴った。
あれほど払いのけるように言い放った家康の今の言葉にこんなにも踊らされる自分に嫌と言うほど腹が立ったが、やはりかつて仕えていた上の言葉には敏感になってしまうようだ。
──やっぱり、まだけじめがつけられてねぇんだな……俺は。
今でもまだ家康に仕えたいと思っている。
未練がましいが、これは忠誠心の現れだと思ってもらいたい。
それほど源九郎は家康に惚れ込み、尊敬していたのだ。
「つかよ、今の言葉を文にすればいいじゃねぇか」


