「それはともかく──」
半蔵は懐から文らしきものを取り出した。
そしてそれを源九郎の前へそっとおく。
「……」
半蔵は何も言わなかった。
──否、言わずともその文の差出人はわかる。
源九郎はかつて仕えていた男の顔を思い出す。
まだ彼と別れて少ししか経ってないと思うが、傍にいなかった間の時間が容赦なく胸を突き刺す。
それは今ある胸の傷より深いかもしれない。
家康から遠回しに戦力外通告を受けた意味は未だにわからない。
誰よりも慕い、敬い、憧れていたはずなのに、一体何が彼との溝を生み、また深めていってしまったのだろう。
全ては半蔵が預かってきたこの文に書かれているのかもしれない。
源九郎は意を決して、震える手を抑えながら文を取った。
──源九郎、元気にしとるか。
わしは元気じゃ。
あの日以来金平糖を半蔵に盗られることも無くなった。世の中、平和になったものじゃ。…──
……殿?
何だこの近況報告は。俺に教える必要があるのか?つか、これからざっと二十行は金平糖の話でもちきりだぞ。どれだけ殿は金平糖が好きなんだよ。
──まあ、募る金平糖の話もあるだろうがの、また今度じゃ。
仕事さえやってくれれば、わしは何も言うことはない。
家康
……け、結局金平糖の話で終わっちまったじゃねぇか。


