三河の槍使い






「終わりだぁ!源九郎!」




ゆっくり考えている時間はなかったらしい。



槍は無残にも二つに割れ、そのまま小十郎は袈裟懸けに沿ったように源九郎の胸を切り裂いた。







斬られた線が熱かった。






──…くそっ!返り血を浴びて瞬きひとつもしねぇなんて。





吹き出た血を顔面に浴びてもなお、小十郎はこちらに目を据えている。





まるで源九郎の意識がとぶのを待っているかのようだ。






斬られたのは一瞬だが、今はとても長い時間の中に放り投げられた気分で、自分だけが遅くなっているようだ。




痛みも急なものではなく、ずーんとのしかかってくる重みに近い。



しかれども、そこを帯びる熱は灼熱の陽のようだ。





そんな時間が終わったと思ったら、今度は抉られるような痛みを催す。





これが伊達政宗の言っていた獣ってことか?




なるほど。

その痛みは斬られた瞬間に現れるわけでは無いみたいだな。






視界に映る小十郎の顔が沈んでいく。


その先にあるのは真っ青な青空だった。





視界が霞むが、見えないことはない。





この青空を見てとよの顔が浮かんできた理由が解せない。



何故今、彼女が思い浮かぶ?


別に彼女が助けてくれるわけでもないだろうに…───




だが、直感的に
またとよを泣かせちまう、と思った。






そして源九郎は意識を手放すのであった。