「今度オレの前でちょっとでも他の男を考えるような素振りを見せてみろ。そのときは、…………快楽を通り越した苦痛をお前の口から吐かせてやる」
そんな言葉を投げ掛けて、健造は宿屋を出ていった。
とよは手をついて、先ほど捕まれた腕を擦ろうとするが蘇る恐怖で手が震えて上手く出来ないでいた。
あんな健造を見たことがない。
あれが本来の姿とでも言うのだろうか。
様々な部位がそれぞれ恐ろしい動物に例えられるため、あの彼をひとまとめに形容することはできないが、強いて言うなればあれは…────
「鬼だわ…」
そう、鬼としか言いようがない。
自分も直に鬼を見たわけではないのだが、彼こそがその基準なるものに当てはまるのではないか。
怖かった。
その言葉だけがとよの頭の中を渦巻く。
いつも気丈に振る舞うとよだが、今だけは健造の豹変ぶりに少なからずの衝撃を受けて心を乱していた。
人肌が恋しい。
次に感じたのはそんな想いだった。
誰かに触れて安心を得たいと心から思った。
「……………源、九郎…さ、ま…」
彼の温もりが欲しかった。
彼の降り注ぐ笑顔が欲しかった。
そして何より、彼の優しい言葉が欲しかった。
この気持ちの正体がわからないほど自分は鈍感ではない。


