自分は知らない、あの人の愛しいと見つめる瞳を奥方は知っているのだろう。
あの人のことだ、醜い自分にでも微笑んでくれたのだから、奥方にはそれ以上に愛でているに違いない。
優しく抱きしめ、優しく囁き、そして、優しく口付ける…────
刹那、胸が苦しくなった。
顔も分からぬ女人に嫉妬しているとでもいるのか。
─────…嫉妬?
何故私は嫉妬などしているのだろう。
今想像したことが自分だったらと、どうして悔しく思うのだろう。
そんなの、まるで……
「─────おとよさん、それでいいですね」
「えっ?」
不意に呼び掛けられた。
どうやら、自分が考え喘いでいるうちに話がまとまってしまったようだ。
「それでよいな、とよ」
よい、と言われてもとよ自身は全く聞いていなかった。
だからうんともすんとも言えなくて、ただ俯いて黙っているしかなかった。
「とよ?どうした」
不思議に思ってそう問い掛ける亭主にとよは曖昧な返事を返す。
それを黙って見ていた健造はいきなり立ち上がった。


