三河の槍使い




自分はどこもこの男には勝てない。



そう思うと悔しくて、奥歯を噛み締める。



この身長差も、容姿も、髪の艶やかさでさえも劣っている。







「…おや。泣かれたのですか?」



「――――…っ!」




健造はとよの目もとに触れた。

蛇のように冷めた指先がひやりと熱の帯びたそれをなぞる。



「………おやめ下さい」




あくまでも、冷静に。




低く、淀んだ彼女の声に臆したのか、健造は一瞬身を怯ませた。

その隙を見逃さなかったとよは掴まれた腕をなぎ払う。



健造は驚いたように目を見張ったが、すぐにまたいつもの笑顔へと戻る。





「おとよさんには笑顔が一番ですよ?何せ僕はその笑顔に惚れているのですから」





この男はそう言って多くの女子を誑かしたに違いない。

だが、自分は騙されない。

彼の言葉は甘い罠。
決してその蜜を吸ってはいけない。





「父の所に行くのでしたらこちらに…。私が案内します」




この男とは極力距離を取りたいと思い、とよは突き放したような口調で視線を逸らして言った。




有無を言わせないように彼女は廊下の奥へと進んだ。




ひどいなぁ、なんて言う健造の声は無視し、今度こそは振り返らなかった。