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場所は変わって同刻、とよはだいたいの家事を終えると父に呼び出された。
父の言いたいことは分かっている。
どうせまた昨日の続きといったことだろう。
彼の部屋へと向かう廊下で思わずため息を漏らす。
何度言われても自分の意見は変わらない。
どうしたって嫁になど行きたくない。
そう思ったとき、
「おとよさん」
その偽りの甘い声が聞こえてきて、肩がビクンと反応した。
何故ここに、とそろりと振り返ってみると、やはり今会いたくもない男がにっこりと微笑みながらこちらに手を振っていた。
――――村田健造
それがこの男の名だ。
そして、父が勝手に決めたとよの許婚。
村田呉服屋の嫡男であり、いずれは家を継ぐ者。
とよは振り返ったまま小さく会釈をしてそのまま立ち去るつもりであった。
しかしいつ間合いを詰めたのか、腕を掴まれてしまった。
「ひどいなぁ、おとよさん。今日は義父に呼ばれて来たのですよ?」
おどけたように笑うその顔に吐き気を催す。
心底嫌そうに顔を歪めたはずなのに、健造はそれを気にも留めずにとよを真正面に向かい合うように掴んだ腕を誘導させる。
そして身を屈めてとよの顔と同位置になるように視線を合わせた。


