人の前では泣くつもりなど更々なかったはずなのに、どうしてか溢れてくる。
涙は女の武器、とは言ったものだが、こんな女を相乗させるような代物ではない。
そんなこと、とっくの昔に気付いていることなのにこれは止まることを知らないのか…。
「…行かないでっ!殺さないでっ…!」
「…………」
必死に訴えていたのが通じていたのか、暫く男は動かなかった。
しかし、とよの掴んだ着物はあっさりと離されてしまう。
「…………あぁっ…───」
今度こそ殺しに行ってしまう。
そう思って、待って、と叫ぼうと見上げた瞬間だった。
「……………え…」
とよの身体は温もりに包まれた。
そして堅い胸板に顔を押しあてられる。
「泣くなよ。俺は、人を殺しにいくわけじゃねぇからよ…」
綺麗だ、と言ってくれたあの優しい声が頭上から降り注いでくる。
「お客様…」
「馬鹿やろ、俺は『お客様』なんて名じゃねぇぜ?」
目を細めた男はとよの濡れた頬を優しく撫でた。
「源九郎だ」
「源九郎…さま……」
「そうよ。そんでな、とよ。俺はこれから鍛練に行くのさ。心配すんな」


