────夜遅く
闇も深まる頃、とよの仕事が終わった。
父も父で散々嫁にやらせたいと言っておきながら、実際よく働くのは娘だ。
夕餉の後片付けを終え、朝の仕込みや身の回りの掃除などもついでにやるとこんな時間までかかるのはしょっちゅうのことだ。
自分が嫁いだ後、全ての労働は父に任されることを彼自身はわかっているつもりなのだろうか。
母が病で他界してからもうすぐ五年になる。
亡くなった直後は父も死んだような瞳をしていたが、今は温かな光がその中に差し込んでいる。
それでもやはり淋しいときはあるようで、月夜に晩酌していることもあった。
父が月を見上げるとき、
それは母を思い出しているときだった。
かつて母は雲に浮かぶ月が好きだと言っていた。
そのときの微笑みを思い返しているのだろう。
二十となった今でも決して褪(あ)せることのない、母の記憶────
この先も、亡くなった母を忘れることはない。
自分の部屋に帰るとき、前の廊下を夕方訪ねてきた男の姿を捉えた。
とよは驚いて彼を凝視した。


