どうしてもこの先に入ることが出来ない…─────
入ればきっと、泣いてしまうから…─────
「どうした?笑えるだろ?」
痺れを切らしたのか、源九郎は催促をする。
とよは口許に笑みを含んだ源九郎に向かってぎこちないが精一杯の笑顔を作った。
────きちんと笑えただろうか?
何しろここ最近は笑うという動作をした覚えがない。
本心を心の奥底に埋めておかなければ、父がすぐに掘り返してしまう。
「…………笑えるじゃねぇか」
源九郎は微笑みを一層深くした。
「綺麗だぜ、とよ」
「………っ!」
不覚にも、その声色で心を奪われてしまった。


