ごゆっくり、とにこやかに会釈した亭主が部屋を去ると、早速源九郎は愛用の槍を手入れし始めた。
明日にでも政宗に掛け合ってみようと心に浮かべながら鋭利な刃を丁寧に研いでいると、
「……失礼します…」
凛とした声に顔を上げるとそこには玄関口にいた女が正座で襖を開いていた。
そして三つ指をついて深く一礼する。
「宿屋の娘、とよでございます。先程のご無礼、失礼しました…」
「いやな、俺が悪いのさ。……ちと、機会がまずかっただけさ」
源九郎は笑う。
きっととよは心を閉ざしている。
婚儀を勧める父を口実に他の障壁から背を向けているように感じた。
名乗る口調や仕草は型にはまったような行動で、どこか半蔵のような面影をも感じ取れた。
だから、笑ったのだ。
彼女が少しでも気が楽になるように…──────
案の定、人から背けてきたとよはこの源九郎の表情に当惑した。
目を大きく見開き、若干頬を染める。
「なぜ……」
何故優しくしてくれるのか、素朴な疑問を源九郎を投げかける。


