三河の槍使い






「何故家康殿がお前に自由を与えたか、わかります?」




突拍子にそう訊ねられて源九郎は身動いた。





「な、なんだよ」





「お前が浪人となり、伊達政宗に仕えるように仕向けるのですよ。そこで情報収集して下さい。僕がそれを逐一家康殿に伝えます」







「…………なるほどな」







半蔵と家康はそこまで考えて自分を扱っていたのかと思うと、やはり彼らには適わないし、己の未熟さも改めて感じる。







「────と、言うことで、僕たちはここから別行動です。また後日会いましょう」







「なっ…」






半蔵は一礼するとさっとその場から消えてしまった。



彼が立っていた場所から風が起こり、落ち葉が合わせて舞い上がった。




突風に腕で眼を庇っていた源九郎が見ると、そこにはゆらゆらと落ちる葉だけで何もない。





「…………ちっ。行っちまったか…」






忍の足では己の足が追い付けないのは百も承知ゆえに、源九郎は駆けることもしなかった。




この一本道を下れば奥州の城下にいけるはず。

すでに奥州の境を越えたため、あと数刻もしないうちに城下に入ることが出来るだろう。



そうすれば、宿屋で泊まることもできる。







「今は半蔵のことよりも自分を優先しないとな」







そう言って源九郎はさらに山道を進んで行ったのだった。