『……。』
そりゃそうだよな
俺が父親にならなかったら
萌チャンの代わりに
育てる人は居ない。
萌チャンには親戚も家族も居ない
義母に
ウザがられてた文字チャンは
親戚に萌チャンの事を話さず
会う事もさせず
子供は明日香だけと言ってたらしいし
突然現れた
義母の娘の子供をお願いしますなんて
どう考えても引き受けるとは思えない
「結城サン、知らないうちに彼女のお腹に赤ちゃんが居て…突然父親?なんて言われたら動揺するのも無理はないしあなたの気持ちも解る。だから一度ゆっくり考えてみて。もし降ろすとなった場合早急に中絶しないと降ろせなくなる、何より早ければ早いほど母体にかかる負担が軽減されると頭に入れておいて」
子供に関して
実感の湧かない知識のない結城は
終始
怒り口調の水野先生に対し
ただただ謝るしかなかった
『……。』
水野先生が病室から出て行った後
俺は
変わらず目を閉じたままの
萌チャンの手を優しく握る
『なぁ萌チャンはどうして欲しい?誰の子なんだろう… 俺に子育てなんて出来ると思う?』
もう誰も死なせたくない
そう思ってたハズなのに
不安と焦りそして迷い
何より父親になる自信がない
でも萌チャンのお腹の中の小さな命
初めて聞かされた日から
心の何処かで俺の決意は
決まっていたのかもしれない
『家族、か…』
不思議と
水野先生と話してた時より
俺の心の中は穏やかで…
『ここに居るんだな…』
萌チャンのお腹を優しく撫でて
ゆっくり立ち上がった俺は
そのまま病室を出て行った


