『ゆ、結城…』
「壁の木材が腐ってて本当良かった…とにかく俺の手、絶対に離すなよ!」
『……。』
マテエエエェエ!
結城と逃げるあたしを見て
怒りのあまり両目を
充血させた亜由美は
四つん這いになり
もの凄い速さで
あたし達の事を追いかけて来る
「まずい…このままじゃ、絶対…追いつかれる…」
長い廊下を走る
あたしと結城は
近くの
部屋に入り鍵をかけて
ドアの扉にそって直線に塩を撒く。
「これで少しは時間稼ぎになると良いけど…」
『……。』
‐ タタッ‐
‐ タタタタタタタッ ‐
デテコイ
デテコイ
デテコイ
あたし達が隠れる部屋の前を何度も
四本足で走り回る
亜由美の足音が微かに聞こえる
『……。』
この緊迫な状況の中
あたしは
さっき亜由美が
言った事を考えていた
" 見逃してあげる "
あたしがあの女の
言いなりになれば
結城が死ななくて済む?


