俺が唯一愛した女



「…俺の顔を潰す気か」



親父は


車内から茶封筒を
取り俺に押し渡す。



『何だよこれ…』



「入学手続きは済ませてある。単位さえ取れば楽な大学だ」



それだけ言うと



親父は車に乗って
エンジンをかける



『おい、何勝手に決めて…』



「何も出来ない奴が偉そうな口を叩くな!ガキはガキらしく親の言う事を聞いてれば良いんだ」



『おい、待っ…』



世間体ってそんなに大事な物なのか?



俺には解らない。



自分の子供より
仕事が大事な親父



世間体が大事な親父。



どれだけ偉いんだよ。



俺の母親はこんな男が良かったのか?
こんな男に惚れたのか?



突然居なくなった



母親の事をなに一つ
教えてくれない親父。



ガキの頃



勇気を出して


母親が消えた理由を
一度だけ聞いた事がある。



親父の口から


返ってきた答えは
うっとうしそうに



"死んだ"の一言。



俺は


アンタみたいには
絶対なりたくない。



どんな形でもいい
親父を見返したい。



その半面


親父には俺の存在を..
認めて貰いたかった。