桜花舞うとき、きみを想う



居間では、母がきみとふたり、ちゃぶ台で向き合って茶をすすっていた。

「お母さん、役場の方がいらしてます」

ぼくが来客を告げると、母の顔色がさっと変わった。

「役場、の?」

「ええ、永山さんです」

ぼくは自分の動揺を母に移してはいけないと思い、できるだけ平静に話した。

けれど母は、ぼくの様子がどうだとか、そんなことはどうでもいいらしかった。

頬を引きつらせ、

「わたしでいいのかしらね。お父さん、会社から呼び戻したほうがいいんじゃないかしら」

と中途半端に腰を浮かせ、ぼくときみの顔を交互に見た。

「いや、お母さんで大丈夫でしょう」

母は、それでやっと足早に玄関へと向かった。

後を追うぼくの後ろから、きみの足音も続いた。