「ちょっとお待ちください。父は仕事で不在なので、母を呼んで来ますから」
ぼくは、速まる鼓動を悟られまいと冷静を装って言った。
永山さんは、黙って頷いた。
役場から、わざわざ人が訪ねて来た。
その理由として思い当たることは、ひとつだ。
とうとう来た、兄の戦死を証明するときが。
一体こんなにも音沙汰なしで、どんな言い訳を考えてきたことか。
ここは謝罪のひとつでもしてもらわなければ、気が済まない。
永山さんを責めても仕方がないとわかっていても、ぼくには永山さんの無表情が憎らしく見えた。
短い廊下を進む間、玄関から居間がこんなに遠く感じたのは初めてだと、ぼくは思った。


