山本長官の戦死やサイパン、グアムでの玉砕が報じられてから、新聞記事もきな臭い匂いが漂い始めている。
ぼくは戦時一色の活字を目で追うことに辟易して、新聞を閉じた。
この頃になると、日毎に新聞が薄っぺらになっていった。
国民に伝えるべき情報がないとは考えにくい以上、原因はそれほどまでに資源が不足しているという他にないだろう。
ここまで切り詰め、国民に負担を強いて、もしも日本が負けたりしたら、ぼくらの生活はどうなってしまうのだろう。
何もかも、すっからかんになってしまうのではないだろうか。
「お待たせ。どうぞ」
きみが湯のみを新聞の横にそっと置いた。
ぼくはそれを両手で包み、冷え切った手指を温めた。
じんわりと熱が手のひらを伝わって、ぼくの手が色味を帯びた。
平穏なきみとの時間に、ぼくは気持ちが安らいだ。


