桜花舞うとき、きみを想う



「ただいま」

家に帰り台所を覗くと、きみが夕飯の下ごしらえをしていた。

「おかえりなさい。今日も寒かったでしょ」

やさしい笑みを浮かべ、きみが言う。

泣き顔を想像したばかりだったせいか、ぼくはきみの笑顔を見てほっとした。

「今日は風が強くて、まいった」

「温かいお茶をいれましょうか」

「ああ、頼むよ」

ぼくは自室に鞄を置いて、居間で新聞を広げた。



『灯りを漏らすな』、『生活を切り詰めよ』、『必ず地下壕へ逃げ込め』



どの面を捲っても、目に入るのは戦意高揚が目的の記事や注意喚起を促す見出しばかりだった。