兄と同じ軍隊にいた人が、ここにいる。
ぼくは、改めて杉田さんをよく見てみた。
生地が薄くなり汚れた軍服に、日焼けをした真っ黒な肌。
とても健康的とはいえない痩せて尖った顎に生えた無精ひげ。
その出で立ちから、相当な苦労が見て取れた。
復員されたとき兄は一緒ではなかったのですか、と喉元まで出かかるも、やはり言葉にならなかった。
そのときぼくは、最初に感じた嫌な予感が、確信に変わったことを悟った。
ぼくの心臓は、早鐘のようだった。
そのとき、杉田さんの手が、そっと布袋に入れられた。
「これは、幸一さんが身に着けておられた眼鏡です」


