父と杉田さんは、正面に向かい合って座ったまま、どちらも身動きひとつしなかった。
杉田さんは正座の膝に抱えた小さな布袋を、ただじっと見ていた。
父はさっきまでの上機嫌も消え去り、難しい顔をして、やはり杉田さんが持っている布袋に視線をやっていた。
あの布袋の中には何が入っているのだろう。
気になったが、それを口に出すことができなかった。
何故だか、聞くのが怖かった。
緊迫した空気が居間に満ち、どうにも居心地が悪くなった頃、突然杉田さんが意を決した様子で顔をあげた。
「わたくしは、陸軍第29師団で中園幸一さんと共に過ごしておりました杉田喜一と申します」
緊張のせいで、杉田さんの声は上擦っていた。
「幸一の父です」
父は、杉田さんとは対照的に落ち着いた声で返した。


