母は杉田さんを居間に通し、どうぞと座布団を差し出した。
「や、お食事中でしたか。突然お訪ねしたうえ、こんなに汚れた格好でお邪魔してしまいまして申し訳ありません」
食卓を見た杉田さんは、恐縮した様子で父と母に頭を下げた。
「どうぞお気になさらず。さ、アヤちゃん、これ運んでちょうだい」
母は、それまでぼくが座っていた場所に杉田さんを座らせ、食卓の箸や皿を片付けるよう、きみに言った。
「いえ、どうぞ食事の用意はそのままになさってください。取り急ぎ、用件を済ませたら失礼いたしますので」
「そういうわけにも」
母が困った声を出したとき、それまで黙っていた父が、ようやく口を開いた。
「いや、すぐに片付けましょう。少しお待たせしますが、挨拶はその後で」
父の言葉に、杉田さんもさすがに黙り、丁寧に頭を下げた。
やがて居間が片付くと、父が杉田さんの正面に腰を下ろした。
杉田さんは座布団の上で正座をして、父に向き合った。


