『同じ軍隊に所属しておりました、杉田喜一と申します』
お世辞にも衛生的とは言えない軍服を着た、やせ細った男性の言葉を、ぼくは頭の中で繰り返した。
そして、嫌な予感がした。
「夜分遅くに申し訳ありません。一刻も早く、中園さんのご家族にお会いしたくて、無礼を承知でやって参りました」
杉田さんは一礼し、またまっすぐに背筋を伸ばした。
「とにかく、おあがりくださいな。主人もおりますので」
母が少し震える声で促した。
きっと母も、ぼくと同じ思いでいたことだろう。
「ではお邪魔します」
杉田さんが脱いだ靴は、布が破れてしまうほど履き潰されていた。


