桜花舞うとき、きみを想う



その姿を見た瞬間、ぼくの心臓が大きく打った。

兄が帰って来たのかと思ったのだ。

でもそれは間違いだと、すぐに自分で気がついた。

兄ならば『ごめんください』などと言うはずがないし、玄関で立ち話をする必要もないからだ。



では、この男性は誰なのだろう。



「お母さん、どちらさまでしたか」

ぼくが背後から声をかけると、母ときみが同時に振り返った。

「あ、ああ、礼二。こちらは、その」

どもる母の言葉を引き取ったのは、他でもないその男性だった。

「中園幸一さんの弟さんですね。わたしは中園さんと同じ軍隊に所属しておりました杉田喜一と申します」

杉田と名乗った男性は、軍人らしく背筋を伸ばしてぼくを見ていた。