「ごめんください」
玄関から聞こえた男性の声に、きみが腰を浮かせた。
「はーい」
こんな時間に来客なんて、滅多にあるものではない。
誰か近所の人が急な用事でもあるのかと、母もきみの後に続いて玄関へ向かった。
「母さんたちだけでは無用心だから、礼二も見て来なさい。ついでに新しい麦酒もな」
父は、母ときみを心配するのを口実にして、ぼくに麦酒を持って来させた。
ぼくは言われた通り、台所に置いてあった麦酒瓶を片手に、玄関に顔を出した。
来客が誰なのか気になったが、ぼくからは、玄関先で対応している母ときみの背中しか見えなかった。
ぼくはふたりに近づいて、そっと背伸びをしてその来訪者を見た。
そこに立っていたのは、軍服を身にまとったひとりの男性だった。


