桜花舞うとき、きみを想う



その日午後は授業がなかったため、広田がぼくの家に遊びに来た。



「やあ、熱いお茶がうまい季節になったな」

ぼくの部屋でくつろぎながら、湯呑みに口をつけて、広田が言った。

まだ気温はそれほど低くなく、中には半そでの輩もいるくらいだ。

それでも朝晩の冷気で体が知らないうちに冷えていたのか、熱いほうじ茶をすすると、芯からほぐれてゆくようだった。

そのうち町の木々が紅葉し始めると、もう冬は間近だ。

「なぁ、広田。この戦争が始まったのは、いつだっけかな」

「あー、そうだなぁ、この冬で3年じゃないか」

「兄貴が学徒出陣で動員されて、もう1年になる」

「ああ」

「この戦争は、いつ終わるんだろうな」

見聞の広い広田も、この問いに対する答えは持っていないようだった。