桜花舞うとき、きみを想う



ぼくは家に帰るなり、新聞を広げた。

「礼二さん、そんなに慌ててどうしたの」

ぼくは、驚くきみの問いかけに返事もせず、紙面を凝視した。

大々的に戦果を報じる記事に追いやられた、隅の記事にも目を通した。

けれど広田が言うようなことは、どこにも書いていなかった。

ぼくは安堵の思いで息をついた。



ふと視線を上げると、きみと母が並んで不安げな顔をしていた。

「何でもないんだ。広田に妙なことを聞かされたから確かめたけど、デマだったみたいだよ」

「広田さん、何ておっしゃったの」

母が切羽詰った口調で訊ねた。

「本当に何でもないんだ、心配いらない。驚かせて悪かったよ」

そう言っても、ふたりは顔を見合わせて首を傾げていた。