「実は、うれしいやら悲しいやら、今朝の漁が大漁でして。だけどご存知の通り、ご宿泊のお客さまが少ないでしょう。どうか海の幸が無駄にならないよう、ぜひお昼を召し上がってからお帰りくださいな」
女将の提案は、昼をどうするか決めかねていたぼくらにとって、ありがたいものだった。
そういうことなら喜んで、とぼくらが申し出を受けると、部屋にはすぐに仲居が入り、食事の準備が始まった。
ところが、配膳の邪魔にならないよう部屋の隅で様子を見ていたぼくは、すぐに申し出を受けたことを後悔することになった。
それというのも、次々に運ばれてくる料理の数々が、想像を遥かに超えた豪華さだったからだ。
いくらなんでも、と心配になったぼくは、いてもたってもいられず女将に尋ねた。
「今更こんなことを言われても困るとは思いますが、ぼくらはこんな豪華な料理に見合った持ち合わせがなくて」
そこまで言うと、女将はさもおかしそうに笑った。
「あらあら。とんだご心配をお掛けして。先ほど申し上げたように、無駄になってしまうものですし、お代など結構ですから、どうぞ召し上がって」
「いえ、そういうわけには」
ぼくが焦って手を横に振ると、女将はそんなぼくを制し、言った。
「じゃ、こうしましょう。これは、わたくしどもからおふたりへの、ご結婚祝いです」
そうまで言われてしまっては、もう引き下がるほかなく、ぼくらは改めて女将の厚意に感謝を述べて、箸を取った。


