桜花舞うとき、きみを想う



翌日も、朝早くから陽光が海を眩しく照らしていた。

この日は、足を伸ばして、いつかきみが『なんとか崎』と言っていた大瀬崎か、有名な修善寺に行く予定をしていた。

けれど、修善寺に行くには計画よりも時間がかかることがわかり、帰りの列車に間に合わない可能性が出た。

大瀬崎に至っては、軍施設があって近寄ることもできないと聞いて、結局どちらも断念せざるを得なかった。

ぼくはきみが愚痴でもこぼすんじゃないかと冷や冷やしたが、きみは呑気な顔で、

「それなら旅館を出る時間まで海を歩きましょうよ。わたし、海って好きだわ」

と言った。

「いいのかい。だってアヤ子、大瀬崎から見る富士を、あんなに楽しみにしていたじゃないか」

とぼくが言うと、きみはもう外に出る支度を済ませて、ぼくを振り返った。

「だって行かれないものはしょうがないじゃないの。また次に来る楽しみができたと思えばいいわ」

下調べを失敗したぼくを責めるでもなく、きみは笑ってぼくを促した。

「ね、行きましょう。少し歩いて、お昼の食事とか、旅館を出てからのこと考えましょうよ」

すっかり予定を狂わされて困り果てているぼくをよそに、きみは冷静だった。