桜花舞うとき、きみを想う



旅館に戻ると、女将が出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ。水族館、いかがでした」

「ええ、おかげさまで堪能できました」

「それはよろしゅうございました」

女将は丁寧な物腰でそう言うと、ぼくたちを客室まで先導し、もてなしてくれた。



「こんなご時勢ですから、客足も遠のいてしまって」

顔を曇らす女将の言うとおりなのだろう、ぼくらは旅館でほかの客とほとんどすれ違わなかった。

「今は海水浴も終わって季節はずれですし、もっと秋になれば客も戻るでしょう」

ぼくは、戦況にもよりますが、と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。

「そうなると願うばかりです。でもねぇ、そんな中でも、おふたりのようなお若い方とお話させていただくだけで元気が出ますわ」

「わたしたちのほうこそ、こんな素敵なお宿で思い出を作ることができてなによりです」

寂しそうに笑う女将に、すかさず、きみが応じた。