桜花舞うとき、きみを想う



とても長いくちづけだった。



きみの柔らかい唇に触れているだけで、ぼくは母に抱かれた赤ん坊のように安心できた。



戦争は、この先どうなるのか。

便りを寄越さない兄は、どこでどうしているのか。

兄にもしものことがあったら、家を担うぼくはどうしたらいいのか。

ときどき頭の中に渦巻いては不安にさせる、日々の出来事。

ぼくは、きみがそばにいるだけで、その不安から解放された。

こんな気持ちになれるのは、きみのぬくもりのほかになかった。



その日、あまりの雨で外へ出ることがかなわなかったぼくらは、温泉で旅の疲れを癒し、伊豆の海の幸を存分に味わって、新婚旅行の初日を終えた。