伊豆に降り立ったぼくらが旅館に到着すると同時に、雨は一層ひどくなった。
通された客室は海に面しているが、聞こえるのは波音ではなく、激しく窓に打ちつける雨の音だった。
仲居の女性も、
「あら、まぁ。せっかくですのにねぇ」
と笑ってしまうほど、窓の外は真っ白だった。
「こんなに降っているけど、明日はあがるかしら」
きみは窓際に立って、そればかり気にしていた。
「空の色が明るいですから、夜のうちにあがるでしょう」
と仲居が言うと、やっと笑みを浮かべた。
「新婚旅行と伺っております。精一杯おもてなしいたしますので、本日は温泉でゆっくりおくつろぎくださいませ」
「ありがとうございます」
丁寧な挨拶を受けて、ぼくは緊張気味に頭を下げた。
きみも、ぼくの隣で慣れない様子で同じようにしていた。


