桜花舞うとき、きみを想う



父がそういうつもりで言ったのではないと、わかっていた。

戦況が悪くなれば、新婚旅行などと悠長なことは言っていられなくなると言いたかったのだろう。

でもぼくの頭の中では、あのときのきみの言葉がこだましていた。

そしておそらく、きみの頭の中でも。



『兵隊さんに取られたりしないわよね』



そもそも学徒動員が発令された時点で、楽観視できない状況であることは容易に想像できた。

いつ終わるか知れないこの戦争が、ぼくら国民の気持ちを一喜一憂させた。



「わたしも三津浜の旅館を調べておこう」

「お願いします。ぼくも友人たちに聞いてみるから」

ぼくは、大丈夫と心の内で言い聞かせて、大学へ向かった。