桜花舞うとき、きみを想う



「三津浜か、悪くないね」

温泉旅館の場所次第では、うまくすれば、なんとか崎まで行かなくとも海と合わせて富士が見えるかもしれない。

父も頷いていた。

「そのあたりなら、いい旅館が多いだろう。戦況がいつどうなるかわからないから、早めに行っておいたほうがいい」



戦況、という言葉に、ぼくの心臓が大きく鼓動した。

父の横に座るきみの顔を伺い見ると、目が合った。

「あ…」

きみが、お盆を手に立ち上がった。

「わたし、洗い物してきます」

陽気さが消えうせ、不自然に慌てて立ち去るきみの後姿を、父が不思議そうに見た。

「どうしたんだ、アヤちゃんは。何か気に障ることでも言ったかな」

ぼくは、さぁ、と言葉を濁した。