やがて、ぼくが朝食を平らげた頃、父が起きて来た。
父はぼくの正面に腰を下ろすなり、言った。
「礼二、新婚旅行の話だが、行き先はどうするんだ」
「行き先、かぁ」
豪勢な夕食や西瓜、それにきみの涙に気をとられて、新婚旅行の話題すら忘れかけていたぼくは、首を捻った。
定番は箱根、熱海、伊豆あたりか。
「ぼくとしては、行ったことのない熱海か伊豆で、海を眺めながらゆっくりしたいけれど、アヤ子がどうかな」
ちょうどそのとき、きみが父の朝食を持って居間に来た。
「アヤちゃん、礼二は熱海が伊豆がいいらしい。きみはどこがいい」
「新婚旅行ですか。それならわたしは伊豆がいいわ」
父の箸を並べながら、きみは答えた。
「お友達がね、三津浜に素敵な温泉旅館があるって話していたの。それに近くの、ええと、何ていったかしら、名前は忘れてしまったけど、なんとか崎ってところから、運が良ければ富士が綺麗に見えるんですって」
口ぶりからして、どうやらきみは、前もって行き先を考えていた様子だった。


